File08 トラの狩りの成功率は?



最初に質問を出します。


トラの狩りの成功率はいったいどのくらいでしょうか。
次から最も近いものを選んでください。
@ほとんど成功することはなく、成功率は10パーセント以下である。
Aトラはすぐれたハンターである。成功率90パーセントに達する個体もいる。
B50:50、成功するのはだいたい2回に1回くらいである。


答えの前に、トラの狩りの手口について解説しておきます。

トラの狩りには、大きく分類すると
「忍び寄り」「待ち伏せ」の2通りの方法がある。
File06でお話したように、トラはあまり待ち伏せをせず、
獲物を積極的に探し回るので、「忍び寄り」が中心になる。
トラが好んで狙う相手は、シカ、イノシシ、レイヨウ(カモシカの仲間)などである。

狩りを成功させるためには、少なくとも獲物から20メートル以内に接近している必要がある。
というのは、
走力の点で狙う相手の方がトラより上回ることが多いからだ。

イノシシの走るスピードは弾丸のように速い、ということを皆さんはご存知でしょうか?
それにトラは長い距離を追走することが苦手なので、
スピードに乗って一回の突撃で獲物を倒さなければ、相手は逃げてしまう。

そこでトラは次のような作戦を立てることになる。

●これ以上近づけば発見されてしまうというぎりぎりのところまで忍び寄る。
 →獲物が自分にとって都合のいい方向に移動してくるまで身を隠したまま待つ

●相手の進む方向を予想して、獲物がたどり着くと思われる場所の近くに潜む

ふむ、ふむ。これが待ち伏せ。トラは頭がいいのです。
仮説を立てて狩りをする、というわけなのです。

しかし狙われている方も、このトラの習性をよく知っているので、
そう簡単にはこの戦術をとらせてくれません。そこで、ほとんどの場合、

●積極的に動き回り相手の位置を見定め、攻撃圏内まで忍び寄って一気に跳躍して襲いかかる

という戦術をとっている。

トラは相手との距離を二、三歩で跳びこえてアタックする。
この攻撃のあいだトラは吼えないし、ほとんどまったく音を立てない。
トラの攻撃は通常、真正面から行われることはなく側面か背面から行われる。
(ただし斜め前からの攻撃はある、と報告されている)

だから、
自分が狙われたと気づいたときには、すでにトラがのしかかっている
ということになる。

このトラの習性に関連して補足すると、
インドとバングラデシュにまたがるデルタ地帯・シュンドルボンでは、
トラの生息地に入り込んだ漁師が時どきトラに襲われます(当たり前です)。
漁をするとき漁師たちは後ろに面をかぶる(後頭部を人の顔の面で覆う)という習慣があります。
これは何のためだかわかりますか?

お察しの通り、「背後から襲う」というトラの習性を利用した保身の策です。

さて最初の質問の答えですが、正解は@です。
生物学者のジョージ・シャラーは、私(堀)も取材をしているカーナ国立公園で
トラの生態調査をした人ですが、そのシャラーによれば、
成功率はわず20分の1程度だといいます。
トラの狩りは失敗、失敗、また失敗・・・の連続なのです。

そういう不器用さがまたいとおしい!!


*参考文献
『滅びゆく森の王者』(チャールズ・マクドゥーガル、小原秀雄+寺田鴻、早川書房)。

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