File09 トラは単独生活者ではない?



トラを追い始めた当初、「トラは単独生活者」という定説を信じていました。
しかしその後の調査によって、これは修正されるべきではないか、
と思うようになりました。
今回はこの点について具体例を挙げながら、考えていきます。


まず、私自身のインドでの観察例をあげましょう。
バンダフガル・ナショナルパークの「B2」という
雄トラは、
推定18ヵ月齢(人間の年齢に換算すれば20歳くらい)の
自分の息子
わずか4メートル離れたところで休息していたことがありました。
そのとき2頭はブッシュ(やぶ)の中で昼寝をしていました。
子育ては母トラだけがする、雄トラは子育てに関与しない。
う〜ん。これまで一般に言われてきたこの定説はアヤシイ。
2頭の姿を目の当たりにして、直観的にそう思いました。

1989年の国際自然保護連合(IUCN)の会報に、
「インド野生生物保護協会」の代表、ベリンダ・ライトの目撃談が寄せられてい
ます。
幼い2頭の子トラと年長の息子を連れた母トラに、1頭の雄トラが出会った。
5頭のトラはたがいに愛情をこめてうれしそうにアイサツを交わしてから、
いっしょに連れ立って行った。
観察場所はカーナ・ナショナルパークです。

ちょっと驚きなのは、
南インドのニルギル山稜で
8頭から9頭の集団がいたという、ハンターの目撃例
です。
発情期の雌トラに求愛しようと複数の雄が集まっていたのかもしれません。
しかしそれより可能性のあるのは、
<1頭の夫と2頭の妻+その成長した子どもたち>という構成です。
一夫多妻制のトラの家族制度そのままのかたちでトラが集まっていたということ
です。

トラがなぜ集まるのか、その原因について確かなことは今のところわかっていま
せん。


さて、「トラ=単独生活者」説はどのように修正されるべきなのでしょうか。
以下は仮説にすぎませんが、私は次のように考えています。


トラは確かに、「基本的には」単独生活者といえるだろう。
だがそれは生息環境によって強いられた「結果」かもしれない。
トラという動物は、
共同体意識を持っていて、
本当は仲間や家族といっしょにいることを好む動物なのではないだろうか。


★この仮説についての詳しい考察は、近著『虎よ!』で書きます。

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