File02 トラはどこから来たのか?



<<トラ>>という動物は、いつ、どこで、誕生したのだろうか?。


いきなりですが、
それに答える前に、あなたにひとつ質問です。

トラとヒョウとライオン。
さて、地球に最初に現れた大型野生猫は?
ヒントは被毛の模様です。


現在、生物学者の間では一般に、トラはヒョウの仲間がライオンへ進化していく過程の
中間段階で出現したと考えられている。
つまり、生物進化の樹形図でいえば、ヒョウはトラより根っこに近く、ライオンはトラより梢に近い。
ということで、上の問い答えはヒョウ。

ヒョウの梅の花のような模様が伸びて、トラの縞模様になったのである。
その証拠に――
ああそうそう。今度、実物のトラを見る機会があったら、縞模様。
よく注意して見てください。シマウマとのちがいは明白です。
トラの縞模様は、よくみると楕円形。
地色の黄色を中に残し、黒い楕円になっているのに、気づくことでしょう。
(シマウマの縞は線です)

ライオンの場合はシンプルに考えてみればわかる。
進化の結果、縞模様が消えてしまったというわけだ。
(トラに縞模様があって、ライオンにない理由は、別の機会に考えます)


さて、本題の「トラはどこからやって来たか」である。

イリオモテヤマネコの「発見者」とされる作家の戸川幸夫氏が書いた
『虎・この孤高なるもの』(講談社)によれば、
古生物学者の間では
「北方起源説」が有力なようだ。
これは、トラの直接の祖先と見られる化石がニューシベリア諸島の洞窟から
発掘されたことを根拠にしている。

トラの祖先は、いまから700万年前〜400万年前にシベリアや中国東北部に出現し、
南下して行ったというのである。

スリランカにヒョウがいるのにトラはいない

というのも、この北方説の根拠になっている。
ヒョウはトラより早く出現していたので、
スリランカがまだインド亜大陸と陸続きだった時代に分布を広げることができた。
しかし、トラは後発だったので南下が遅れ、
すでに島になっていたスリランカには渡れなかった、と推論するのである。


しかし、この「北方起源説」に疑問を投げかける声もある。

トラはシベリアにいるのに、どうして北アメリカにいないのか?
アジアにだけその棲家を限定しなければならない必然性が何かあったのか?

シベリアとアラスカが陸続きだった頃には、たくさんの動物種が往来している。
ヒトも例外ではなく、モンゴロイドは北米だけでなく南米にも到達した。
(南米のインディオがなんとなく私たち日本人と似たような顔をしているのはそのためです。
もっとも、混血がすすみ、日本人とはかなり隔たっていることはいうまでもありませんが)

しかし、トラにはその痕跡がない。
トラの化石はアメリカ大陸から出土したことがないのだ。これは何を意味しているのか?
という疑問である。


もう一つの着眼点は、バリ島。

現在のバリ島には、
ネコ科では最も原始的なタイプの種と言われるベンガルヤマネコが生息しているが、
1940年代ごろまではトラもいた。

しかし、ヒョウはどうか?
近くのジャワ島には古くからいたのに、バリにはいない。
「案外古くからトラは
東南アジアに分布していたかもしれない」
      (今泉吉典『どうぶつと動物園』1974年No1)


研究者のなかには、まったく別の見方もある。

トラは、
アジア南東部(中国南部)でまず進化したというのである。
トラの原型は、中国に現存する「アモイトラ」に見られる。
短い頭蓋骨、小さめの脳室といった原始的な形態的特徴を持っているのが、
その根拠なのだそうだ。
アモイトラは、野生では、もはや20頭くらいしか生き残っていないらしい。
現存する「5つの亜種」の中で、最も危急存亡の危機にあるといえるこのアモイトラに、
トラの起源の秘密が隠されているとはなんとも皮肉な話である。


しかし、これらはすべて仮説でしかない。
諸説あるが、いずれも決定打を放つまでにはいたっていない。

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